2026.8.22
【番外編】二次相続を見据えた不動産の渡し方|一次相続だけ考えると損する理由

父が亡くなり、母と子どもが食卓を囲んで遺産の話をする。「お母さんが全部相続すれば、税金もかからないらしい」。残された母の暮らしを思えば、ごく自然な結論に見えます。
しかし、相続はそこで終わりません。最初の相続を「一次相続」、その後、残された配偶者が亡くなったときの相続を「二次相続」といいます。
一次相続で税額を抑えられても、二次相続まで含めた納税額は、かえって増えることがあります。特に不動産は、現金のように簡単には分けられません。自宅、賃貸物件、土地を「誰に、いつ、どの形で渡すか」。その順番が、税負担だけでなく、将来の家族関係にも影響します。
一次相続が0円でも、家族全体で得とは限らない
一次相続で配偶者に財産を多く渡す方法が選ばれやすい理由の一つが、「配偶者の税額軽減」です。
配偶者が実際に取得した正味の遺産額が1億6,000万円まで、または配偶者の法定相続分相当額までであれば、配偶者に相続税はかかりません。正味の遺産額が基礎控除を超え、この軽減によって納税額が0円になる場合は、原則として相続税の申告が必要です。
この制度は、夫婦で築いた財産であることや、残された配偶者の生活を守る必要があることを踏まえたものです。利用すること自体に問題があるわけではありません。
注意したいのは、「一次相続の税額が最も少ない分け方」と「一次・二次相続を通じた税額が最も少ない分け方」は、必ずしも同じではないことです。
一次相続で自宅や賃貸物件を配偶者に集中させると、それらは配偶者自身の財産に加わります。賃貸物件なら、その後の家賃収入も配偶者の財産として蓄積されます。
目の前の納税額が0円になっても、税負担が消えたとは限りません。二次相続へ持ち越されている可能性があるのです。
二次相続で負担が重くなりやすい3つの理由
第一の理由は、典型的な家族構成では法定相続人が減ることです。
相続税の基礎控除は、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算します。父の相続で母と子ども2人が相続人なら4,800万円ですが、母の相続で子ども2人だけになれば4,200万円です。
第二の理由は、通常の二次相続では配偶者の税額軽減を使える人がいなくなることです。母が再婚していないケースでは、財産を受け取るのは子どもとなるため、一次相続で母が利用した軽減は使えません。
相続税は、課税遺産総額を法定相続分で取得したものと仮定して相続税の総額を計算し、その税額を実際の取得割合に応じて各相続人へ割り振ります。税率は、法定相続分に応ずる取得金額に応じて10%から55%まで段階的に設定されています。相続税の計算方法と税率表は国税庁で公開されています。
第三の理由は、不動産が分けにくいことです。
現金なら「2人で半分ずつ」と分けられますが、実家1軒や賃貸マンション1棟を同じようには分けられません。公平に見える共有名義も、将来の売却や建て替え、借入れを伴う大規模修繕などで共有者間の調整が必要になります。
小規模宅地等の特例についても注意が必要です。特定居住用宅地等では一定の要件を満たすと330平方メートルまで80%の評価減を受けられますが、取得者や居住状況、保有継続などによって適用可否が変わります。一次相続で使えた特例が、二次相続でも同じように使えるとは限りません。
詳しい要件は、国税庁の「小規模宅地等の特例」で確認できます。
配偶者に全部渡す場合と、子にも渡す場合を比較
単純化した事例で比べてみましょう。
父の正味の遺産額が1億2,000万円、母自身の財産が2,000万円、子どもが2人いる家庭を想定します。債務、葬式費用、生命保険金、過去の贈与、小規模宅地等の特例などは考慮せず、財産額はすべて相続税評価額とします。
一次相続で父の財産1億2,000万円をすべて母が取得すると、配偶者の税額軽減により、一次相続の納税額は0円です。
ところが、母の財産は自身の2,000万円と合わせて1億4,000万円になります。財産額が変わらないまま二次相続を迎えると、子ども2人の相続税は合計約1,560万円です。
一方、一次相続で母が6,000万円、子ども2人が各3,000万円を取得した場合、一次相続で子どもが納める相続税は合計約480万円です。
その後、母の財産は自身の2,000万円と合わせて8,000万円となり、二次相続の税額は約470万円。一次・二次相続の合計は約950万円です。
この条件では、一次相続で子どもにも財産を渡した方が、二度の相続を通じた納税額は約610万円少なくなります。
なお、前の相続から10年以内に次の相続が発生し、二次相続の被相続人が一次相続で相続税を納めていた場合は、「相次相続控除」を受けられる可能性があります。ただし、この事例では母の一次相続時の納税額が0円であるため、母に課された相続税を前提とする相次相続控除は生じません。
相次相続控除については、国税庁の「相次相続控除」で確認できます。
実際の税額は、不動産評価、債務、生命保険、過去の贈与、各種特例などで変わります。それでも、この比較から分かるのは、「今払わないこと」が「最終的に払わないこと」とは限らない、という点です。
不動産は金額ではなく「役割」で渡し方を考える
二次相続対策は、配偶者の取得額を機械的に減らすことではありません。税金を減らすために、残された配偶者の住まいや生活資金が不安定になっては本末転倒です。
大切なのは、不動産を役割ごとに整理することです。
自宅は、まず配偶者が安心して住み続けられるかを考えます。そのうえで、所有権を誰が取得するのか、将来売却するのか、子どもが戻って住む可能性があるのかを検討します。
状況によっては、配偶者が住み続ける権利と建物の所有権を分ける「配偶者居住権」も選択肢になります。配偶者居住権は、遺産分割や遺贈などによって設定する制度です。評価、登記、修繕負担、将来の売却などに影響するため、利用前に専門家による検討が欠かせません。制度の概要は、法務省の配偶者居住権に関する案内で確認できます。
賃貸物件では、「誰が管理を続けられるか」が重要です。家賃収入が得られる一方、空室、修繕、借入金、入居者対応も引き継がれます。管理を担える子が決まっているなら、一次相続からその子へ承継し、経営と所有を一致させる方法も考えられます。
利用予定のない土地は、相続税評価額だけで判断できません。実際に売却できる価格、固定資産税、境界、接道条件、建築の可否、将来の需要まで確認し、「残す・貸す・売る」を比較します。
準備の第一歩は、登記名義、市場価格、相続税評価額、家賃収支、借入残高、修繕履歴を一覧にすることです。そのうえで、一次相続と二次相続を通算した税額を試算し、遺言、生命保険、生前贈与、売却などの選択肢を比べます。
不動産会社には価格や活用方法を、税理士には相続税を、司法書士や弁護士には登記・遺言・権利関係を相談する。役割を分けて専門家へ相談すると、家族の話し合いも具体的になります。
まとめ
一次相続で配偶者に多くの財産を渡せば、目の前の相続税は抑えやすくなります。しかし、典型的な二次相続では法定相続人と基礎控除が減り、配偶者の税額軽減も使えないため、二度の相続を通じた税負担が増える可能性があります。
不動産承継の正解は、税額だけでは決まりません。配偶者が暮らす自宅、管理を続ける人が必要な賃貸物件、利用予定のない土地では、適した渡し方が異なります。
まだ相続が起きていない今なら、名義、価格、収益、将来の利用予定を落ち着いて確認できます。
「誰がいくら受け取るか」だけでなく、「この不動産を誰がどう使うのか」を家族で話すこと。それが、二次相続で税金と不動産だけが残り、子どもたちが途方に暮れる事態を避けるための準備です。
※本記事は2026年8月時点の法令・公表資料を基にした一般的な解説です。実際の相続税額や特例の適用結果は、家族構成、財産内容、相続時期などによって異なります。具体的な遺産分割や税額については税理士などの専門家へご確認ください。
関連記事
- 相続と生前贈与はどちらが得?不動産承継で税負担を減らす方法
- 親の家を生前整理する方法|不動産をスムーズに承継するために
- 不動産の共有状態を解消する方法|兄弟・親族間トラブルを防ぐには
- 相続した不動産は売却すべき?判断基準を解説
- 京都の空き家問題と売却の進め方|相続した実家を「負動産」にしない方法
.png)









