2026.7.19
【売却編】認知症の親名義の不動産は売却できる?成年後見制度・家族信託の違いと手続きの基礎

「親が認知症と診断されたので、実家はもう売却できないのでしょうか?」
近年、このようなご相談が急速に増えています。高齢化が進み、介護施設への入居や住み替え、空き家管理、相続対策などをきっかけに、不動産売却を検討するご家庭は少なくありません。
まず結論からお伝えすると、
認知症と診断されたからといって、必ずしも売却できなくなるわけではありません。
重要なのは「認知症という病名」ではなく、不動産売買契約の内容を理解し、自分の意思で判断できる意思能力があるかどうかです。
一方で、意思能力が十分でない状態になると、家族であっても本人に代わって自由に売却することはできません。
この記事では、
- 売却できるケース・できないケース
- 成年後見制度と家族信託の違い
- 早めに準備する重要性
について、不動産実務の視点から分かりやすく解説します。
認知症でも売却できる?ポイントは「意思能力」
不動産売買契約を有効に結ぶためには、所有者本人に契約内容を理解し判断できる意思能力が必要です。
意思能力とは、
「この不動産を売却すると所有権が移転し、代金を受け取ることになる」
という契約の意味を理解できる能力をいいます。
そのため、
- 軽度の認知症でも意思能力がある場合
- 判断能力の低下がみられても契約内容を理解できる場合
には、売却できる可能性があります。
反対に、契約内容を理解できない状態で締結した売買契約は、後に無効と判断される可能性があります。
ここでよくある誤解があります。
「子どもだから代理で売却できる」ということはありません。
親子であっても当然に代理権はなく、本人が有効な委任契約を締結できない状態であれば、委任状による代理も認められません。
つまり、
家族だから売れるのではなく、法律上の権限があるかどうかが重要なのです。
成年後見制度とは?本人を守るための制度
すでに本人の意思能力が十分ではない場合に利用される代表的な制度が成年後見制度です。
家庭裁判所へ申立てを行い、成年後見人が選任されることで、本人に代わって財産管理や法律行為を行えるようになります。
もちろん、不動産売却も可能です。
ただし、本人が住んでいる自宅などの居住用不動産を売却する場合は、家庭裁判所の許可が必要になります。
また、成年後見人が最優先に考えるべきなのは、本人の利益です。
そのため、
- 相続税対策
- 子ども同士が相続しやすくするため
- 家族全体の利益
だけを目的とした売却は認められにくく、本人の生活や介護費用の確保など、本人の利益との関係が重視されます。
さらに、一度成年後見制度を利用すると、原則として本人が亡くなるまで制度は継続します。
専門職後見人が選任された場合には、継続的な報酬が必要となるケースもあります。
家族信託とは?認知症になる前にできる財産管理
近年、認知症対策として利用が増えているのが家族信託(民事信託)です。
家族信託は、
本人に十分な意思能力があるうちに
信託契約を結び、将来の財産管理を家族へ託す制度です。
例えば、
- 親(委託者・当初受益者)
- 子(受託者)
という契約を締結しておけば、将来親の意思能力が低下した後でも、受託者である子が契約内容に従って不動産を管理・売却できます。
成年後見制度との大きな違いは、
信託契約で定めた目的の範囲内で、柔軟な財産管理ができることです。
例えば、
- 空き家を売却する
- 賃貸住宅を建て替える
- アパート経営を継続する
- 売却代金を介護費用へ充てる
といった運用も可能です。
ただし、家族信託は万能ではありません。
受託者は信託契約で定められた目的や権限の範囲内でしか財産を処分できません。また、本人に意思能力が失われた後では、原則として新たに家族信託契約を締結することはできません。
制度選びより大切なのは「早めに動くこと」
成年後見制度と家族信託は、どちらが優れている制度というものではありません。
重要なのは、
「今、親御さんに意思能力があるかどうか」
です。
意思能力がある場合
- 家族信託
- 任意後見契約
- 財産管理委任契約
など、将来に備える選択肢があります。
意思能力が十分でない場合
成年後見制度の利用を検討することになります。
多くのご家庭では、
「まだ元気だから大丈夫」
と考えているうちに認知症が進行し、選択肢が限られてしまうケースも少なくありません。
だからこそ、
最も重要なのは制度を知ることではなく、元気なうちに家族で話し合うことです。
まとめ
認知症の親名義の不動産は、「認知症だから売却できない」のではなく、契約時に本人の意思能力があるかどうかが大きなポイントになります。
意思能力が十分でない場合は、家族だけで売却を進めることはできませんが、成年後見制度を利用することで売却できる可能性があります。一方、将来に備えるのであれば、本人が元気なうちに家族信託や任意後見契約などを検討することも有効です。
不動産は、ご家族の大切な資産であると同時に、介護費用や今後の生活を支える重要な財産でもあります。「まだ先のこと」と考えず、早い段階で家族と話し合い、司法書士・弁護士などの法律専門家や税理士、不動産会社へ相談しておくことで、将来の選択肢を広げることにつながります。
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