2026.5.9
【番外編】親が元気なうちに話せなかった家族が直面する、相続の現実

「相続の話をすると縁起が悪い」「親はまだ元気だから、今は話さなくていい」そう考えるご家庭は少なくありません。
しかし、相続で本当に家族を苦しめるのは、財産の多さではなく、“何も決めていなかったこと”です。
特に不動産は、預金のように簡単に分けられません。自宅、土地、収益物件、会社名義と個人名義が入り混じる資産は、相続発生後に一気に問題化します。
相続対策は「死の準備」ではありません。親の思いを家族で共有し、不動産を動かせる状態にしておくための“家族を守る準備”です。
相続でもめるのは、特別な資産家だけではない
「うちは大きな財産がないから大丈夫」と考える方は多いですが、実際には一般家庭でも相続トラブルは起こります。
家庭裁判所に持ち込まれる遺産分割事件では、遺産額5,000万円以下のケースが多くを占めるとされており、「資産が少ない=もめない」とは言い切れません。
特に問題になりやすいのが、不動産中心の相続です。
たとえば、相続財産が「実家の土地建物」「賃貸アパート」「少額の預金」という構成だった場合、不動産を誰が引き継ぐのか、売却するのか、賃貸経営を続けるのかで意見が分かれます。
長男は「親の面倒を見てきた」と考え、他の兄弟は「法定相続分に近い形で公平に分けたい」と考える。どちらにも理由があるからこそ、話し合いは簡単ではありません。
さらに、安易に共有名義にすると、将来の売却や建て替え、活用方針の決定が難しくなります。共有物に重要な変更を加えるには、原則として共有者全員の同意が必要になるためです。
相続で怖いのは、争いそのものだけではありません。
「誰も決められない不動産」が残り、空き家化・老朽化・固定資産税負担だけが続くことです。
親が元気なうちにしか聞けないことがある
相続後に多くの家族が口にするのが、「親は本当はどうしたかったのだろう」という言葉です。
実家を残したかったのか。
収益物件を誰に任せたかったのか。
売却して現金化する選択肢も考えていたのか。
会社や事業と不動産をどう引き継がせるつもりだったのか。
これらは、親が元気なうちにしか確認できません。
相続トラブルの多くは、法律だけの問題ではなく、家族間の情報不足から始まります。親世代は「長男が継ぐだろう」と思っていても、子世代にはその意思がない。反対に、子どもは「自分が引き継ぐつもり」でも、親は売却や整理を考えている場合もあります。
大切なのは、最初から完璧な結論を出すことではありません。
まずは、どんな不動産があるのか、借入は残っているのか、賃貸契約や管理会社はどうなっているのか、将来どうしたいのかを共有することです。
相続の話は、不吉な話ではありません。
家族が将来困らないための、現実的で前向きな確認作業です。
不動産相続で見落とされやすい納税資金
不動産を多く持つ家庭で注意したいのが、「資産はあるのに現金が足りない」という状態です。
相続税には基礎控除があり、課税価格の合計額から「3,000万円+600万円×法定相続人の数」を差し引いて課税遺産総額を計算します。
しかし、土地や収益物件の評価額が高い場合、相続税の対象になる可能性があります。そして相続税は、原則として相続開始を知った日の翌日から10か月以内に申告・納付が必要です。
相続税は金銭で一度に納めるのが原則ですが、一定の要件を満たせば延納や物納も認められます。ただし、申請や審査が必要であり、誰でも自由に使える制度ではありません。
そのため、納税資金が不足すると、相続後に急いで不動産を売却せざるを得ないことがあります。
しかし、急な売却では、
・相続人の意見がまとまらない
・空室や修繕問題がある
・買い手との交渉時間が足りない
・希望価格で売れない
といったリスクが高まります。
相続対策とは、単なる節税ではありません。
「納税できるか」「売るならいつ売るか」「残すなら誰が管理するか」まで考えることが重要です。
2024年から相続登記は義務化。不動産放置のリスクは高まっている
不動産相続では、もう一つ重要な制度変更があります。2024年4月から、相続登記の申請が義務化されました。
不動産を相続で取得したことを知った日から原則3年以内に相続登記を申請する必要があり、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象となります。
これは、「相続したけれど名義変更しないまま放置する」という状態を減らすための制度です。
相続登記をしないまま時間が経つと、次の相続が発生し、関係者が増えます。すると、誰が所有者なのか分かりにくくなり、売却も活用も難しくなります。
親世代が元気なうちに不動産の棚卸しをしておくことは、これからの時代、ますます重要です。
確認すべきことは、難しいことばかりではありません。
・不動産の名義は誰か
・共有名義になっていないか
・抵当権や借入は残っていないか
・賃貸借契約の内容はどうなっているか
・将来、売るのか、残すのか、活用するのか
こうした情報を整理するだけでも、相続後の混乱は大きく減らせます。
本当に残すべきなのは、不動産よりも家族関係
親が子どもに不動産を残す背景には、多くの場合「家族のために」という思いがあります。
しかし、その思いが共有されないまま相続が始まると、不動産は家族を守る資産ではなく、対立の原因になってしまいます。
実家には思い出があります。
土地には先祖代々の歴史があります。
収益物件には親の努力が詰まっています。
だからこそ、不動産相続は単なるお金の話ではありません。感情、責任、経営判断が重なるテーマです。
大切なのは、「絶対に残す」ことでも「必ず売る」ことでもありません。
家族にとって最も良い選択を、事前に考えられる状態をつくることです。
売却するなら、なぜ売るのか。
残すなら、誰が管理するのか。
収益物件を引き継ぐなら、経営できる人はいるのか。
事業承継と絡むなら、会社と個人資産をどう整理するのか。
こうした話し合いを生前にしておくことが、結果として家族関係を守ります。
まとめ
相続は、親が亡くなった瞬間に突然始まるものではありません。
実際には、「まだ元気だから大丈夫」と話し合いを先送りした時点から、静かに問題が積み上がっていきます。
特に不動産は、分けにくく、動かしにくく、感情も入りやすい資産です。さらに、相続税の納税期限や相続登記の義務化など、放置できない実務上の期限もあります。
相続対策とは、不吉な話ではありません。
親の意思を確認し、子ども世代が困らないようにし、不動産を「動かせる資産」として整えておくための準備です。
本当に残すべきものは、不動産そのものだけではありません。
家族が争わず、納得して次の世代へ進める状態です。
「いつか話そう」ではなく、「元気な今だからこそ話せる」。
その一歩が、将来の家族を守る最も現実的な相続対策になります。
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