2026.8.24
【番外編】マンションの老朽化問題とは?建て替え・解体が進まない理由と所有者が確認すべきこと

共用廊下に増えたひび、雨漏りを知らせる掲示、総会で繰り返される修繕積立金の値上げ議案。築年数の古いマンションを所有していると、「この建物はいずれ建て替えになるのだろうか」と不安になることがあります。
しかし、マンションは古くなったからといって、自動的に建て替えや解体へ進むわけではありません。建物の状態だけでなく、管理組合の運営、修繕資金、区分所有者の意向、事業採算、法的な決議が複雑に絡むからです。
老朽化問題の本質は、建物が古くなることだけではありません。「必要な対策を、まだ選択肢が残っているうちに決められるか」が問われています。
マンションの老朽化は築年数だけでは判断できない
マンションの老朽化とは、コンクリート、外壁、屋上防水、給排水管、電気設備などが劣化し、安全性や居住機能を維持しにくくなる状態です。
さらに、区分所有者の高齢化、空室や賃貸住戸の増加、役員不足、修繕積立金不足が重なると、建物の劣化が管理上の問題へ広がります。
国土交通省によると、2024年末時点のマンションストックは約713万戸、築40年超の高経年マンションは約148万戸です。また、高経年マンションでは、世帯主が70歳以上の住戸割合が5割を超えています。建物と区分所有者の「二つの老い」が同時に進んでいるのです。
よくある誤解が、「鉄筋コンクリート造は47年が寿命」というものです。47年は住宅用RC造・SRC造に適用される税務上の法定耐用年数で、建物が47年で使えなくなるという意味ではありません。
同じ築45年でも、計画的に防水・外壁・配管工事を実施してきたマンションと、不具合を先送りしてきたマンションでは状態が違います。「何年たったか」以上に、「どのように管理してきたか」が重要です。
建て替えや解体が簡単に進まない三つの理由
第一の理由は、マンションが多数の所有者による共同資産だからです。専有部分は個人の財産ですが、柱、壁、廊下、屋根、共用配管、敷地などは共有されています。戸建てのように一人の判断で建物を解体することはできません。
2026年4月施行の改正区分所有法では、建て替え決議には原則として、区分所有者数と議決権のそれぞれ5分の4以上の賛成が必要です。
ただし、次の「客観的事由」のいずれかがある場合は、それぞれ4分の3以上に緩和されます。
- 耐震性の不足
- 火災に対する安全性の不足
- 外壁等の剝落により周辺へ危害を及ぼすおそれ
- 給排水管等の腐食により著しく衛生上有害となるおそれ
- バリアフリー基準への不適合
築年数が古いというだけでは、この客観的事由に該当しません。また、所在等が分からない区分所有者についても、自動的に決議の母数から除外されるわけではなく、裁判所による除外決定が必要です。
第二の理由は、所有者ごとに事情が違うことです。住み続けたい高齢者、売却したい相続人、賃料収入を得ている投資家、住宅ローンが残る人では、望む結論が異なります。賃借人がいる住戸では、賃貸借の終了や損失補償も検討しなければなりません。
第三の理由は、事業採算です。建て替え後に増えた住戸を販売できれば所有者の負担を抑えられますが、近年は新たに利用できる容積率が減少し、所有者負担が増える傾向にあると国土交通省も指摘しています。高さ制限、敷地条件、建築費などによっては、建て替え計画そのものが成立しません。
2025年2月の国土交通省資料に記載された実績は、建て替え297件、敷地売却11件です。マンションストック全体から見れば、再生が実現した事例は限られています。
「修繕か建て替えか」の二択で考えない
老朽化対策には、次のような選択肢があります。
- 大規模修繕や耐震改修を行い、建物を使い続ける
- 法律上の「建物更新」を行う
- 現在の建物を取り壊し、新しいマンションへ建て替える
- 建物と敷地を一括して売却する
- 建物を取り壊して敷地を売却する
- 建物のみを取り壊し、敷地を共有のまま残す
2026年に新設された「建物更新」とは、単なる大規模修繕や一般的な一棟リノベーションではありません。構造上主要な部分の機能を維持・回復させるため共用部分の形状を変更し、それに伴ってすべての専有部分の形状、面積または位置関係も変更する法定の再生手法です。
大切なのは、最初から建て替えを結論にせず、建物診断を踏まえて、各手法の費用、実現可能性、所有者負担、所要期間、売却時の分配額を比較することです。
「いつか建て替えになれば高く買い取ってもらえる」という期待だけで所有を続けるのは危険です。建て替えが決まっても、従前と同等の住戸を追加負担なしで取得できるとは限りません。
一方、適切な修繕で使い続けられる建物を、古いという理由だけで解体するのも合理的とは限りません。老朽化対策とは、建物の寿命を当てる作業ではなく、複数の将来像を費用と期限付きで比べる作業なのです。
築古マンションの所有者が確認すべき6項目
所有者や相続人は、建て替えの話が具体化する前に、次の項目を確認しておきましょう。
1.建物の状態
耐震診断、劣化診断、外壁・防水・給排水管の調査結果、大規模修繕履歴を確認します。室内がきれいでも、共用配管や構造部分に問題がある場合があります。
2.長期修繕計画
計画の作成年だけでなく、物価や工事費、実際の劣化状況を反映して見直されているかが重要です。国土交通省は、長期修繕計画を5年程度ごとに見直すことを推奨しています。
3.修繕積立金の実態
積立金残高、滞納額、借入金、値上げ予定、一時金徴収の可能性を確認します。「修繕積立金が安い」ことは、必ずしも長所ではありません。
4.管理組合の運営状況
総会の開催状況、出席率、役員のなり手、議事録、管理費等の滞納、連絡が取れない所有者の有無を確認します。資料が整っていても、必要な議案が何年も先送りされている場合は注意が必要です。
5.再生に向けた検討段階
再生検討委員会の有無、専門家への相談、建物診断、修繕・建て替え・売却の比較状況を確認します。「勉強会を始めた段階」と「費用負担まで提示された段階」では意味が大きく異なります。
6.自分の権利関係と出口
登記名義、共有者、抵当権、賃貸借契約、管理費等の未納を整理します。相続した住戸に自分が住んでいなくても、区分所有者として費用負担や管理への協力が求められます。保有、賃貸、売却の三案について、今後の支出まで含めて比較しましょう。
確認したい資料は、管理規約、直近数年分の総会議事録、長期修繕計画、修繕履歴、収支決算書、修繕積立金残高、重要事項調査報告書などです。
まとめ
古いマンションの本当のリスクは、築年数そのものではありません。修繕が必要なのに資金がない、所有者と連絡が取れない、選択肢を比較しないまま劣化だけが進む――。こうした「決められない状態」が最も深刻です。
建て替え決議の話が出てからではなく、まだ修繕・保有・賃貸・売却など複数の選択肢がある段階で、建物、管理、資金、自分の権利関係を確認することが重要です。
廊下のひびや積立金の値上げ通知は、単なる古さの印ではありません。マンションの将来について考え始める、小さな合図なのです。
※法制度および統計は2026年8月時点で確認しています。個別案件では、マンション管理士、建築士、弁護士、税理士、不動産会社などへご相談ください。
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