
≫ 「神様がたくさんいる」のではなく、1300年以上の稲荷信仰が重なって見えている
伏見稲荷大社を歩いていると、本殿のご祭神だけでなく、稲荷山のあちこちで「○○大神」と刻まれた石を目にします。
「伏見稲荷大社には、いったい何人の神様が祀られているのだろう?」と不思議に思ったことはないでしょうか。
結論からいうと、本殿に祀られているご祭神は五柱です。一方、稲荷山には個人や家々の信仰によって神名を刻んだ「お塚」が数多く奉納されており、そこにも「○○大神」という名が見られます。
つまり、本殿の五柱、古くから信仰されてきた稲荷山、そして長い年月の中で広がった人々の信仰が重なった結果、「たくさんの大神が祀られている」ように見えるのです。
今回は、伏見稲荷大社の「大神」の秘密をたどりながら、1300年以上続いてきた稲荷信仰の姿をご紹介します。
≫ 今回の秘密
この記事では、次のことが分かります。
・伏見稲荷大社の本殿に祀られているのは五柱のご祭神であること
・稲荷信仰はもともと稲荷山の三つの峰と深く結びついていたこと
・古くは「三座」だったものが、長い歴史の中で「五社」になったこと
・稲荷山で「○○大神」という名前をたくさん見かける理由
・有名な狐は「稲荷大神そのもの」ではないこと
≫ 秘密① 本殿に祀られているのは、実は五柱のご祭神
まず知っておきたいのは、現在の伏見稲荷大社の本殿には、五柱のご祭神が祀られているということです。
伏見稲荷大社の公式案内では、次の五柱が示されています。
・宇迦之御魂大神(うかのみたまのおおかみ)
・佐田彦大神(さたひこのおおかみ)
・大宮能売大神(おおみやのめのおおかみ)
・田中大神(たなかのおおかみ)
・四大神(しのおおかみ)
本殿では、下社・中社・上社に加え、摂社である田中社と四大神の五社が、一つの本殿に一緒に祀られています。これを「一宇相殿」といいます。
ここで大切なのは、伏見稲荷大社が、この五柱について「稲荷大神の広大なご神徳が神名化されたもの」と説明していることです。
そのため、「別々の五人の神様を集めた神社」と単純に考えるよりも、長い稲荷信仰の中で稲荷大神のさまざまな働きが五柱の神名として祀られてきた、と理解すると分かりやすいでしょう。
≫ 秘密② 最初から五社だったわけではなく、古くは「三座」だった
ここが、伏見稲荷大社の歴史で特に面白いところです。
927年にまとめられた『延喜式神名帳』には、「稲荷神社三座」と記されています。
この三座とは、下社・中社・上社です。
伏見稲荷大社では、稲荷大神が和銅4年(711)に稲荷山へ鎮座したと伝えられています。社伝では、深草の秦氏が三柱の神を稲荷山の三ヶ峰に祀ったことが始まりとされています。
つまり稲荷信仰は、現在の山麓にある本殿だけから始まったのではありません。
背後にそびえる稲荷山そのもの、特に三つの峰との結びつきが非常に深い信仰だったのです。
現在も稲荷山には、一ノ峰、二ノ峰、三ノ峰があり、それぞれ上社神蹟、中社神蹟、下社神蹟として大切にされています。
千本鳥居を「観光名所」として見るだけでは気付きにくいのですが、その鳥居の先にある山こそ、稲荷信仰の原点なのです。
≫ 秘密③ 三座に二社が加わり、やがて「稲荷五社」になった
では、三座だった稲荷社が、なぜ現在の五社になったのでしょうか。
長い年月の中で、田中社と四大神が本社三座と深く結びついて信仰されるようになったためです。
伏見稲荷大社の公式資料によると、1150年には下社への奉幣に田中社、中社への奉幣に四大神が加えられた記録があります。
さらに1266年の稲荷祭では、田中社と四大神も祭りに加わったと伝えられています。
こうして、本来の下社・中社・上社の三座と、田中社・四大神の二社が密接に結びつき、「稲荷五社」として信仰されるようになりました。
そして応仁の乱で社殿が焼失した後、1468年に設けられた仮殿では五社が同じ社殿に祀られ、1499年には現在につながる五社相殿の本殿へ遷宮したとされています。
つまり現在の五柱の姿は、ある時突然決められたのではありません。
何百年もの祭祀と人々の信仰が積み重なって形づくられたものなのです。
≫ 秘密④ 山で「○○大神」をたくさん見かける理由は「お塚」にある
伏見稲荷大社をさらに山へ登ると、「○○大神」と刻まれた石が次々と現れます。
ここで、「本殿は五柱なのに、どうしてこんなに大神がいるの?」という疑問が生まれます。
その答えの一つが「お塚」です。
伏見稲荷大社によると、明治時代に稲荷山の七つの神蹟地が定められ、親塚が建立されたことをきっかけに、その周辺へ個人の信仰を表す「お塚」が奉納されるようになりました。
お塚には、ご神徳にちなんだ神名や、それぞれの家などで信仰してきた「何某稲荷大神」といった神名が石に刻まれています。
現在、稲荷山のお塚は約1万を数えると公式に説明されています。
ですから、山の中に「大神」という文字がたくさんあるからといって、それらすべてが本殿のご祭神とは別に、伏見稲荷大社が一柱ずつ公式の主祭神として定めているという意味ではありません。
一人ひとりの信仰が神名となり、石となり、稲荷山に積み重なってきた。
これこそ、伏見稲荷大社を歩いたときに「神様がたくさんいる」と感じる大きな理由なのです。
≫ 秘密⑤ 狐は「大神」ではなく、稲荷大神のお使い
伏見稲荷大社には、もう一つよくある誤解があります。
それが「伏見稲荷は狐を祀っている神社」というものです。
伏見稲荷大社は公式に、狐は稲荷大神のお使いである「眷属」であり、稲荷大神そのものではないと説明しています。
境内で見かける狐像は、多くの場合、口に稲穂、巻物、鍵、玉などをくわえています。
鳥居と同じように伏見稲荷を象徴する存在なので、狐そのものが神様だと思われがちですが、ここは区別しておきたいところです。
本殿の五柱、稲荷山の神蹟、お塚に刻まれた数多くの神名、そして大神の眷属である狐。
それぞれの意味を知ってから歩くと、伏見稲荷大社は「鳥居と狐の観光名所」から、何世代もの信仰が積み重なった場所へと見え方が変わります。
≫ 地元民しか知らない豆知識
千本鳥居を抜けた先にある奥社奉拝所は、単に千本鳥居の「ゴール」ではありません。
実はここは、背後にある稲荷山の三ヶ峰を遥拝する、つまり離れた場所から山を拝むための場所です。
さらに山へ進むと、一ノ峰は上社神蹟、二ノ峰は中社神蹟、三ノ峰は下社神蹟として今も信仰されています。
本殿で見た「上社・中社・下社」という言葉が、そのまま山の峰につながっているのです。
次に訪れたときは、千本鳥居だけで帰らず、奥社奉拝所から背後の山を意識してみてください。
伏見稲荷大社が「建物だけの神社」ではなく、稲荷山と一体となった信仰の場所であることが分かりやすくなります。
≫ 実際に歩いてみよう
|大神の意味を知って歩くおすすめ散策ルート
JR稲荷駅
↓
伏見稲荷大社 本殿
↓
千本鳥居
↓
奥社奉拝所
↓
お塚を見ながら稲荷山参道へ
↓
三ツ辻または四ツ辻
↓
体力に合わせて折り返し
本殿では、まず五柱のご祭神が祀られていることを意識してみましょう。
その後、千本鳥居を抜けて奥社奉拝所へ進み、さらに山へ入ると、「○○大神」と刻まれたお塚が少しずつ増えてきます。
「本殿の五柱」と「山にあるお塚」の違いを知って歩くと、同じ参道でも見え方がかなり変わります。
|所要時間の目安
本殿から奥社奉拝所までを中心に見るなら、参拝や見学を含めて約60〜90分を目安にすると歩きやすいでしょう。
山頂まで巡る場合は石段や坂道が続くため、時間と体力に余裕を持ち、歩きやすい靴で訪れることをおすすめします。
JR奈良線の稲荷駅は大社のすぐ近く、京阪本線の伏見稲荷駅からは東へ徒歩約5分です。周辺道路は混雑することがあるため、伏見稲荷大社も公共交通機関の利用を案内しています。
境内は写真撮影のためだけの場所ではなく、現在も多くの方が祈りを捧げる信仰の場所です。参拝者の通行を妨げず、お塚や神蹟にも敬意を持って歩きたいですね。
≫ センチュリー21ホームサービス伏見桃山店からひとこと
伏見稲荷大社がある深草・稲荷地域は、世界中から参拝者が訪れる場所である一方、地域の方にとっては毎日の通勤・通学・買い物がある生活の街でもあります。
JR奈良線の稲荷駅と京阪本線の伏見稲荷駅を利用できる一方、大社に近い道路と少し離れた住宅地では、人通りや道幅、坂道の程度、休日の雰囲気が大きく変わります。
住まいを探すときは「伏見稲荷駅から徒歩○分」だけで判断するのではなく、大社へ向かう人の流れと住宅地へ向かう道を実際に歩き比べることが大切です。
同じ深草でも、観光地に近い場所と稲荷山の麓、平坦な場所と坂のある場所では暮らし方が違います。地図だけでは分からない「道の表情」を確認することが、この地域で住まいを選ぶ大切なポイントです。
≫ 編集後記
「○○大神」という文字を見つけても、これまでは何となく通り過ぎていたかもしれません。
ところが本殿の五柱、稲荷山の三ヶ峰、そして人々が奉納してきたお塚の歴史を知ると、その一文字一文字の向こうに、何百年もの信仰が重なっていることに気付きます。
伏見稲荷大社は、一度完成してその姿を変えなくなった史跡ではありません。1300年以上前から、人々が願い、感謝し、祈り続けることで今の風景がつくられてきた場所です。
次に朱色の鳥居をくぐったら、ぜひ鳥居だけでなく、その先にある石の神名や稲荷山にも目を向けてみてください。いつもの伏見稲荷が、少し違った場所に見えてくるはずです。
≫ FAQ|伏見稲荷大社の大神についてよくある質問
Q1.伏見稲荷大社には何柱の神様が祀られていますか?
本殿には、宇迦之御魂大神、佐田彦大神、大宮能売大神、田中大神、四大神の五柱が祀られています。伏見稲荷大社では、この五柱を稲荷大神の広大なご神徳が神名化されたものと説明しています。
Q2.伏見稲荷大社は最初から五柱を祀っていたのですか?
いいえ。927年の『延喜式神名帳』には「稲荷神社三座」と記され、古くは下社・中社・上社の三座が中心でした。その後、田中社と四大神が密接に結びつき、五社として信仰されるようになりました。
Q3.稲荷山に「○○大神」という石がたくさんあるのはなぜですか?
主に「お塚」と呼ばれるもので、個人の信仰による神名や、それぞれの家などで信仰してきた稲荷大神の神名を石に刻み、稲荷山へ奉納したものです。現在は約1万のお塚があるとされています。
Q4.伏見稲荷大社の狐は神様ですか?
いいえ。伏見稲荷大社では、狐は稲荷大神のお使いである「眷属」と説明しています。稲荷大神そのものが狐というわけではありません。
Q5.稲荷山まで登らないと伏見稲荷大社を参拝できませんか?
いいえ。本殿への参拝だけでも可能です。ただし、稲荷信仰と山との関係をより深く知りたい方は、千本鳥居から奥社奉拝所、その先の稲荷山へ進むと、三ヶ峰や神蹟、お塚などを見ることができます。体力に合わせて無理のない範囲で歩きましょう。
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